川原礫『アクセル・ワールド1―黒雪姫の帰還―』(電撃文庫 2009)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

ストーリー(公式より)

 どんなに時代が進んでも、この世から「いじめられっ子」は無くならない。デブな中学生・ハルユキもその一人だった。
 彼が唯一心を安らげる時間は、学内ローカルネットに設置されたスカッシュゲームをプレイしているときだけ。仮想の自分(アバター)を使って≪速さ≫を競うその地味なゲームが、ハルユキは好きだった。
 季節は秋。相変わらずの日常を過ごしていたハルユキだが、校内一の美貌と気品を持つ少女≪黒雪姫≫との出会いによって、彼の人生は一変する。
 少女が転送してきた謎のソフトウェアを介し、ハルユキは≪加速世界≫の存在を知る。それは、中学内格差(スクールカースト)の最底辺である彼が、姫を護る騎士≪バーストリンカー≫となった瞬間だった――。

感想

 タイトルは前々から知っていたけど内容は全然知らなかったこの作品。表紙の女の子が随分きわどい服着てますねという印象しかなかったのが正直なところなのだけど、友人に薦められて読んでみたらびっくりするほど面白かった。この作品は元々webサイトで連載されていたもので、それを著者が手直しして応募し電撃大賞を受賞したのだとか。ネットで連載されていた時からかなりの人気を博していたそうで、なるほど確かにハマってしまう面白さがある。イラストも綺麗で、カラー絵もモノクロ挿絵も良い感じ。特に挿絵はその場面の雰囲気が上手く表現されていて素晴らしいと思った。
 ジャンルとしてはサイバーパンクってやつかな?ネットワーク技術が進歩して、仮想世界が生活のなかで大きな役割を果たしている近未来。こういう作品は特殊な用語が多くて初めはとっつきにくいんだけど、世界観に浸ることができるととても楽しい。僕はちょっと前にバルドスカイをプレイしたところだったのですぐに馴染めた。
 ストーリーは非常に王道、冴えない主人公がある日美しいヒロインと出会い、なんかすごい力に目覚めて、色々あってヒロインを守る為に戦うことになる。こう書くとありがちでつまんなそうに思えるが、なんだろう、読んでる最中はワクワクしっぱなしだった。一言で言うなら男の子の好きな要素がてんこ盛り。やっぱり少しでも童心を持ちつづけている男であれば、「選ばれた戦士」「お姫様を守る」「ヒーローに変身」「ピンチに目覚める力」とかそんなのにワクワクするじゃないですか。そうした要素がきちんと物語のプロセスの中で違和感なく消化されていて、実に爽快なサクセスストーリーになっている。いじめられっ子で卑屈になっている主人公が、ヒロインとの出会いをきっかけに段々と成長してゆく様子は、王道であるがやはり心に響くものがあって思わず応援したくなった。バトルものでありながら主人公がチビでデブ、というのは珍しいかも。この本当に平凡、寧ろマイナスと捉えられる人物像もこうしたストーリーの盛り上がりに一役買っていると感じる。挿絵のハルユキはぽっちゃりで可愛いので、マイナスイメージはあんまりないけれど。
 ヒロインの黒雪姫も非常に可愛く魅力的、中3だけどクールで少しいたずらっぽいお姉さんタイプ。そしてたまに見せる年相応のいじらしい態度がまた素晴らしく可愛いのだ。幼馴染のチユリはほんのりツン気味ながら心優しく、黒雪姫に負けず劣らずの可愛さで、直結シーン*1は挿絵の可愛さと相まってかなりの破壊力。しかし美少女があんなエロティックなアバター*2校内ローカルネットを闊歩するなんて、なんて素晴らしい世界なんだ……。
 多分、予想外の展開が少ない王道ストーリー*3の面白さは、それを構成する素材の出来に大きく左右される。この作品が面白いのは主人公やヒロインと言ったキャラクターが魅力的であり、また仮想と現実がリンクする世界観や戦闘システム等の設定が丁寧に描かれているからだと思う。少し惜しいと思う点を挙げるとすれば、ヒロインが主人公に惚れる理由が少し弱い気が。あと終盤の対戦相手の心情についても少し。
 少年ジャンプ的な王道OKでRPGとか好きな人なら大いに楽しめるはず。終盤を読んでいると昔プレイしていたMMORPGを思い出した。これからもっとそんな雰囲気になっていくんだろうなー。1巻はヒロインとの出会いと≪加速世界≫での戦闘が説明された後に一悶着、といった感じで導入的な色合いが強かったので、続編での世界観の広がりに期待が高まる。僕も黒雪姫と直結したいです。

*1:重要:この作品における「直結」とは、首に装着したネットワーク機器同士をケーブルで直接接続することで相手とのプライベートなネットワーク環境を構築する行為を指す。決してエロティックな行為ではないんだからね!

*2:黒雪姫のアバター/表紙イラスト

*3:だからこそ王道と言うわけだが