萬屋直人『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』(電撃文庫 2008)

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

ストーリー(公式より)

 少年と少女は旅に出た。一冊の日記帳を持って、世界の果てへ。
 世界は穏やかに滅びつつあった。「喪失症」が蔓延し、次々と人間がいなくなっていったのだ。人々は名前を失い、色彩を失い、やがて存在自体を喪失していく……。
 そんな世界を一台のスーパーカブが走っていた。乗っているのは少年と少女。他の人たちと同様に「喪失症」に罹った彼らは、学校も家も捨てて旅に出た。
 目指すのは、世界の果て。
 辿り着くのかわからない。でも旅をやめようとは思わない。いつか互いが消えてしまう日が来たとしても、後悔したくないから。
 少年と少女は旅を続ける。記録と記憶を失った世界で、一冊の日記帳とともに。

感想

 もしも世界がそう遠くない未来に滅びるとしたら、もしも自分という存在の消滅が不可避の運命となったら、自分はどうするだろう。穏やかにいつもと同じ日常を過ごすだろうか、それとも日常を投げ出し全てが終わる前に何かしようと思うだろうか。このお話に登場する少年と少女は後者を選んだ。といっても、特に何か意味あることを為そうというわけではない。世界の果てという曖昧な場所を目指す、旅それ自体が目的の旅。
 清々しく青い表紙が印象的な本書。前述の通り、存在が徐々に消失していく病「喪失症」にかかった少年と少女がちょいちょいラブコメしながらバイクで旅をするお話。この作品に出てくる登場人物には固有名がなくて、主人公は「少年」でヒロインは「少女」(二人が主人公とも言えるが)、旅先で出会う人々も「秘書」「ボス」「姫」、等々。存在が消える過程のひとつということでこうなっているのだけど、なかなか面白い試みだなと思った。話ははっきり言って結構ありきたりで、キャラもわりとベタな感じ。けれど読了して面白かったと感じたのは、全体の雰囲気が秀逸だからだろうか。滅びを待つだけとなった世界の話ながら、物悲しさは感じても陰鬱さは感じない。それぞれの人物が滅びを受け入れた上で何かをしていて、物語は終始穏やかに進行していく。落ち着いた気分でゆっくりと楽しみたい時にお勧めな作品。イラストも綺麗で、特に背景が丁寧に描いてある冒頭のカラーイラストは爽やかな雰囲気の形成に一役買っている。表紙と1ページ目の青空がお気に入り。続編がある予定らしいけども、もう2年半ほど経っているので刊行されるかは怪しいところ。続きがあれば読みたいという気もするけど、1巻完結でも良い気もする。