十文字青『ヴァンパイアノイズム』(一迅社文庫 2009)

 『ぷりるん。〜特殊相対性幸福論序説〜』が面白かったので手に取った1冊。『ぷりるん。』と内容的な繋がりはないが、同じ第九高校が舞台となる第九シリーズ2作目。

ヴァンパイアノイズム (一迅社文庫)

ヴァンパイアノイズム (一迅社文庫)

公式HPより

よんじょうしいか【四條詩歌】
家が隣同士の幼馴染み。初恋の相手から、歴代の好きな人、初体験の相手まで知っている。僕の部屋の気の置けない住人。

おのづかなち【小野塚那智
第九高校電研部部長。かなりの美人だけど、そうとうの変わり者らしい。クラスでの小野塚那智観賞は僕の趣味。

はぎおきほ【萩生季穂】
ろくに話したこともないクラスメイト……あと伊達眼鏡。なぜか突然「わたしを手伝ってくれない」と言われた。

ヴァンパイアノイズム[vampire:no:ism]
第九高校を舞台にした、せつなくて、ほんの小さな青春ラブストーリー

 上記の前作『ぷりるん。』は可愛い表紙に冒頭のカラーページはエロエロでありがなら、話は重くて心が軋む、でもどこか爽快で、心地よくダウナーな気分にさせてくれるような本だった。暗かったり少々鬱っぽかったりする作品は個人的に好むところであって、同じ方向性の『ヴァンパイアノイズム』も非常に好みなお話だった。少年時代に感じる寂しさとか無力感とか絶望感とか、そういったものが上手く描いてあって、こうした悩みを抱えた事のある人ならば共感できるのではないかと思う。ただ上で述べたように少々鬱っぽい内容であり、全体的にテンション低い雰囲気なので多分に人を選びそうな作品ではある。性描写満載の『ぷりるん。』ほどではないかもしれないけども。
 「吸血鬼になりたい」という萩生季穂に主人公は徐々に魅せられてゆき、やがては「死」への恐怖に囚われてゆく。おそらく誰もが一度は体験する「死」を考えるということ。どう向き合えばいいのかは人によって違うし、結局納得出来ないままってこともある。そんな死という概念に直面して、畏れ、葛藤する二人の関係は、ともすれば危うくもある。少々エロティックな吸血行為が二人の奇妙な関係を象徴すると共に、物語全体の雰囲気を絶妙に彩っていると感じた。読んでから表紙を見ると、このイラストも読む前とは違った印象で見えてくる。二人の身を刺す真冬の寒さは、彼らを包み惑わせる死への恐怖を連想させた。この物語に大きなオチはない。前向きでも後ろ向きでもなくて、ただ支え合って生きていこうとする二人の姿が心に残った。
 僕は眼鏡キャラが基本的にあまり好きではないのだけど、季穂は可愛かった。挿絵もとてもかわいい。あとキャラについてもうひとつ、『ぷりるん。』の登場人物の中で小野塚那智がどうも浮いてるなと思ったら、第九シリーズに共通して登場する特別なキャラだったらしい。前作と立ち位置は変わってないけれど、本作ではうまく話にはまっていた印象。
 そんな感じでとても良い作品でした。おすすめ。