野矢茂樹『無限論の教室』(講談社現代新書 1998)

 野矢茂樹ウィトゲンシュタイン論理哲学論考」を読む』(ちくま学芸文庫)が良かったので、著者名で検索して興味をもった1冊。

無限論の教室 (講談社現代新書)

無限論の教室 (講談社現代新書)

 僕は昔から数学が絶望的に苦手で、大学受験の時にも相当苦労した。大学では文学部に入ったのでやれやれやっと数学に関わらずに済む、なんて思ったものだけど、こういった概念の話にはちょっと興味を惹かれる。だってさあ、無限の話とか聞くと何かワクワクするじゃないですか。典型的なダメ文系だった高校時代はもういかに数学との関わりを最小限にするかを考えてたから、公式と問題の解き方を無理矢理覚えて問題演習して……みたいなことしかやってなくて、たとえば教科書にポンと書いてある公式はそれぞれが意味や背景を持っているんだろうけど、そんなものを考えたこともなかった。公式とか計算方法とかそんなのより、もっと根本的なところを見ようとしてたら、あの頃も少しくらい数学を好きになれてたかもしれない。こういう本をもっと早く読んでおけばよかったな、と思う。
 小説のような形式で無限論を解説するという、少し変わった内容の本。架空の大学で「ぼく」と「タカムラさん」の二人が、ちょっと変わった「タジマ先生」の講義を受けるという設定。ゼノンのパラドックスから始まって、実無限と可能無限の話、無限の濃度の話、対角線論法、無限集合論、メタ数学、あとラッセルさんにカントールさんにゲーデルさんのこととか、そんな話がユーモアたっぷりのやりとりを交えて語られる。説明が分かりやすくて数学が苦手な僕でも十分理解できたし、哲学っぽいところもあって面白かった。対角線論法って綺麗だなあとか、0.999……=1ってそういえば高校の頃聞いたなあとか、ラッセルのパラドクスって論理哲学論考ウィトゲンシュタインが言及してたなあとか、そんなことを考えつつワクワクしながら読んだ。この本を読むとタジマ先生の講義を受けてみたくなる。あとがきに書いてあるが、これは依頼されて書いた本ではなくて、数学好きな著者が暇を見て自発的に書いたものらしい。著者が楽しんで書いているのがよくよく感じられる本だった。この人の別の本もまた読んでみたい。