加藤徹『貝と羊の中国人』(新潮新書 2006)

 好きなクリエイターさんがtwitterで言及していたので手に取ってみた1冊。

貝と羊の中国人 (新潮新書)

貝と羊の中国人 (新潮新書)

目次

第一章 貝の文化 羊の文化
漢字の字源と国民性/二種類の祖先/八百万の神と至高の神/孔子が象徴する中国文化の深層/「貝」と「羊」の使い分け
第二章 流浪のノウハウ
「泊まる」と「住む」の区別/太平天国の残党と旧会津藩士/流民が作った国/流民の存在感/日本にはいないタイプの英雄/華僑・華人と在外日本人・日系人/新華僑と中国の戦略
第三章 中国人の頭の中
病院前の葬儀店/お茶はひとりでに入らない/ODAと希望小学校の違い/ニーハオ・トイレと銭湯は同じか/「彼は嬉しい」と言えるか/和魂洋才と中体西用/遠く離れていても「この子」/無私物の範囲/「小諸なる古城のほとり」は砂漠?/大づかみ式合理主義/「外向性」に富む中国語
第四章 人口から見た中国史
文明と人口/幸運だった日本人/始まりは戦国時代/中華帝国の誕生/六千万人の壁/歴史は繰り返す/「命の値段」の暴落/一人を批判したため三億人増えた/人口増減と王朝の寿命/中華人民共和国の予想寿命/政治的文明
第五章 ヒーローと社会階級
英雄の条件とヒーローの条件/初代皇帝の出自/周辺出身型ヒーローとエリート英雄/中国三千年の黒幕/坊主めくりができぬ国/一階級による文明の独占/オトコのいろいろ/曹操が悪役に転落した理由/『三国志』の真の勝者/人間粗製濫造神話/ヒーローつぶし/悪役の必要性
第六章 地政学から見た中国
村長の愚痴/万里の長城というくびき/千年に三度だけ/東西分類と南北分類/中国旅行はタイムマシン/シルクロードから海へ/黄河文明長江文明/北は力、南は思想/首都は国土の片隅にある/中華帝国のアキレス腱/愛国心と緯度/東アジアの国際関係/現代中国人の領土意識/万里の長城は復活するか
第七章 黄帝神武天皇
自然国家と人工国家/英語名では「普通の国」/漢人、唐人、中国人/地域名称「支那」の発見/支那ジパング/戦争と「支那人」/「中国」の普及は戦時中から/フビライ以来の伝統/神武・黄帝檀君/加上説とナショナリズム/「交流」はなかった/競合的協力者の不在/幻の日中連合軍/真の「交流」はこれから
終 章 中国社会の多面性
意外な類似性/戦前の日本社会と比べると/ホンネとタテマエの使い分け/東京は北京のとなり/抗日戦争六十周年の裏側

感想

 「貝」のつく漢字と「羊」のつく漢字から中国人のもつ性質の祖型を見出し、彼らの深層に迫る本。著者がその深い知識と見識をもって「中国とは何か」という大きなテーマについて新たな切り口や視点を呈示してくれる。親日的でも反日的でもなく、歴史や文化や等々様々な観点から語られる中国人論は非常に興味深い。「本書が、読者の中国理解の叩き台の一つとして役立てば、と願う。」と始めに書かれているが、著者の考え通り中国について考える上で非常に有用なものになっていると思う。読んでてすごく面白かった良書。目次を見れば分かる通り、各章でテーマ別に小さなトピックが集められている形式なのもサクサク読めてよかった。